「27歳」は“しっかりとした大人”というイメージを持っていた。しかしその「27歳」を経験した今、まだまだ大人になり切れていないと実感している。あなたはどうだろうか?

20代をすでに7年も経験していて、社会人としては中堅に入りつつある。周りは結婚や出産をして、自立した精神的な“大人”になろうとしている。一方、キャリアも実らず、ずっと足踏みのままの人もいるだろう。夢ばかり語っていないで、30歳になる前に現実に見切りをつけないといけないのだろうか……。そんな悩み(クォーターライフクライシスと言うらしい)を持つヒロインを描いた『フランシス・ハ』は、今を生きる「27歳」たちの背中を押してくれるに違いない。

『フランシス・ハ』予告

グレタ・ガーウィグ演じる「27歳」のフランシスは、ニューヨークでダンサーとして奮闘する日々。ルームメイトで親友のソフィー(ミッキー・サムナー)との生活が、彼女の毎日を明るくしていた。2人の独特なノリは、長年付き合っているカップルを見ているようだ。

しかしある日、フランシスはソフィーに、憧れのトライベッカで別の友人と部屋を借りる、と言われてしまう。自分は彼氏に同棲を提案された時、ソフィーを一人にできないと断ったのに、だ。

ソフィーとのすれ違いにどこか憤りを感じるフランシスの姿は、実に不憫だ。同時に、なぜか自分の心にもむず痒さが走る。人生は移りゆくものなのに、どんどん進んでいく同世代の生活から目を背けたくなってしまう、その気持ちがよくわかるからだ。

フランシスにとっては、優先順位が一番だったソフィーの存在。しかしソフィーの想いは違っていた。親友との“現状維持”ではなく、未来へと少しずつ進むことを決めたのだ。フランシスは金欠だから仕事を増やしたいと思う反面、その感情はその場限りで、ずっと現状に焦りを感じているわけではない。今を生きているタイプだ。還付金があればちょっと羽目を外してしまう。それに対してソフィーは将来を明確に見据えていた。友達としての縁は一生切れないであろう。しかしライフステージが進み、今まで見えなかった価値観の違いが浮き彫りになってしまった。

そんな中、フランシスはパーティーで出会ったレヴ(アダム・ドライバー)とベンジー(マイケル・ゼゲン)と同居することになる。ソフィーとは異なり、今を存分に楽しむタイプの2人だ。

ある日、フランシスはレヴの連れである女性に「(ソフィーより)年上かと思った」「大人っぽくはない」「不思議、顔は年上なのに」という言葉をかけられる。極めつけに、ベンジーは「27歳は若くない」と。

「27歳」という年齢は確かに若くはない。しかし老けているかと言われれば、そうでもない。学生時代、私はこの映画のこのセリフに「なんて無神経な!」と思っていたが、「27歳」になった今はどこかすんなりと受け入れられる。“自分は何者か”を決める最終段階に入っているような、そんな年齢なのだ。

しばらくして家賃が払えなくなったフランシスは、ダンサー仲間の家に居候することになる。会話の中に「子供」が出てくると話を変えて、話題をすべて自分に向けようとする。未だに彼女は、現実を直視することを避けていた。一方でソフィーは、彼氏が昇進するのに合わせて大好きだった仕事を辞め、日本に移住するという。フランシスはそれを人づてに聞き、動揺を見せる。

自分本位に生きていくフェーズは終わったのかもしれない。選択が続く人生には犠牲もつきものだ。ソフィーは、どんどんと人生ゲームの駒を進めていく……。ソフィーから久しぶりに電話があって、フランシスは「調子がいいの」と答えるが、その声はどこか震えていた。

もちろん、自分がやりたいことをとことんやるのが人生だ。人と比べたって意味がない。それでも、人と関わらなければならない人生において、選択しなければならないこともある。何を捨てて何を目指すのか。自分にとっての幸せは何なのかを改めて模索する時期なのだ。

しばらく後、ダンサーとしての仕事がなくなったフランシスは母校の寮の管理人としてアルバイトをすることになるが、そこで偶然、帰国中のソフィーと鉢合わせしてしまう。フランシスはアルバイトしている理由を取り繕い、酔っぱらったソフィーはすべてイヤになったからニューヨークに戻りたいと言う。フランシスはまた昔のように戻れるのだろうか、と淡い期待を見せるが、ソフィーは結局翌朝には元の生活に戻っていった。彼女を必死に追いかけるフランシスには孤独と同時に、恥ずかしさもあるようだった。それほど彼女を大切に思っているということも見て取れる。

人生は巻き戻しが不可能だ。進んだ分、もっと進まなければならないのだ。フランシスとソフィーはあの楽しい日々ではなく、別の幸せを掴む段階に立っていた。

その後、ニューヨークに戻ったフランシスは、ダンサーとしての夢を追いつつも、現実的にお金を稼ぐための職に就いた。とても幸せそうだ。年齢と共に自分が目指すべき未来は変化していくのかもしれない。それは必ずしも諦めるということではなく、移りゆく人生に、移りゆく気持ちに、しっかりと向き合った結果だ。

きっとこの作品を観てしばらく経てば、時々、自由でへんてこなフランシスの「27歳」の人生の記録に戻ってきたくなるはず。人生に迷いを感じた時、あなたを包み込んでくれるだろう。